『時計を忘れて森へいこう』 334P 780円
(光原百合 創元推理文庫)
ISBN 4−488−43202−6
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◆ 内容と感想
光原百合さんは、英米文学研究者で小説家です。
98年に、この『時計を忘れて森へいこう』で公式にデビュー。
02年には『十八の夏』で第55回日本推理作家協会賞を受賞しました。
いまは尾道大学で芸術文化学部の講師、推理小説研究部の顧問をして
います。
『時計を忘れて森へいこう』という書名が、まず印象に残ります。
語り手は若杉翠という高校生の女の子。
描かれているのは、いわゆる「日常の謎」です。
と、ここまで書くと、近頃増えてきた「いやし系」かあと思う方も
いるかもしれませんね。
たしかに殺人事件が起きることもなく、
驚愕のトリックが出てくるわけでもありません。
けれど、人の気持ちほど謎を生むものはないのですから、
「いやし系」などということばでくくってしまうのはもったいない。
収められた三つの物語で描かれるのは森、人、恋、そして愛です。
森の中を歩いていて出会った深森護を好きになり、
自然解説指導員の活動を手伝い始めた翠が出くわす謎。
そのどれもが、哀しい色を帯びています。
謎を解いていく「護さん」の性格がちょっと違ったら、
読むのがつらくなってしまったかもしれないくらいです。
人が、人を想うからこそ謎は生まれるのかもしれない。
読み進めながら、ずっとそんなことを考えていました。
帯にも書いてありますが、気兼ねなく涙を流せるところで
ページを開くことをおすすめします。
読んでいくうちに清海の森を渡る風を感じる一冊です。
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◆ 今日の「学び」
人の「想い」はまっすぐなもの。
それをどの方向から見るかによって、受ける印象が変わったりする。
いくつもの視点を持つことを心がけたいものです。
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